NVIDIA GTC 2026 現地参加レポート
今年もサンノゼで開催されたNVIDIA GTC 2026に参加してきた。世界中の開発者・研究者・起業家がAIの最前線に集まる一週間だ。昨年は時差ボケで体力を削られた反省から、今回は三日前にサンフランシスコへ前入りし、体調を整えてから会場に向かう旅程を組んだ。
前入りしたサンフランシスコで
Alamo Squareに面した宿に滞在し、25年前と13年前にこの街を訪れたときの記憶をたどりながら数日を過ごした。針葉樹の香りが漂う公園を横切り、エンバーカデロの波止場まで歩く。サンノゼへ移動する日には、初めて自動運転タクシーのWaymoを呼んでみた。ハンドルがひとりでに回りながら、右折時にはきちんと車列へ車体を押し込んでいく。運転は明らかに人間よりうまく、不安どころか、むしろ安定していて安心する乗り心地だった。ミルブレー駅からカルトレインに乗り換え、シリコンバレーの街々を抜けてサンノゼへ向かった。

初日:9時間ぶっ続けのワークショップ
GTC初日は「Adding New Knowledge to LLMs」という有料のフルデイ・トレーニングを受講した。今年はFine Tuningをきちんと学びたいと思って選んだお題だ。NeMo Curatorでのデータキュレーション(シングルクォートやタブの統一、Unicodeの再フォーマット、PIIの除去、重複の排除)から始まり、CPT(Continued Pretraining)、NeMo Customizerを使ったSupervised Fine TuningとPEFT(LoRA)、NeMo Evaluatorでのモデル性能の測定、そしてNeMo-RLでのアラインメントまでを一気に体験する構成だった。NeMo-RLの演習は、LLMの返答をシェイクスピア風の古風な英語に変換するようアラインメントするというお題で、こんなことまでできるのかと驚かされた。演習環境のDLIインスタンスがワークショップ中しか動かないため、Jupyter Notebookはその場でローカルに保存しておくべきだという実践的な学びも得た。終了後にはGear Storeに立ち寄り、DGX SparkやJetson Thorの実機を眺め、DGX Spark上で動くNemotronとチャットを試した。隣り合わせた人たちと自然と技術談義が始まるのもGTCの醍醐味だ。
二日目:ジェンスン・フアンの基調講演
二日目の目玉はNVIDIA CEO、ジェンスン・フアンの基調講演。少しでも良い席で聞きたいと朝7時前にSAPセンターへ並び、幸運にもステージ真ん前のアリーナ席に入ることができた。会場は熱狂に包まれ、ジェンスンが「これはテクノロジーカンファレンスです、スーパーボウルじゃないよ」とジョークを飛ばすほどだった。

内容の詳細はメディア各社に譲るが、私が受け取った主要テーマは三つだ。ひとつは新型GPU「Vera Rubin」による、ワットあたりのトークン生成量(Token/Watt)の飛躍。データセンターはデータを処理する場所ではなく、AIが消費するトークンを生成する「AIファクトリー」になるという昨年の概念を、今年は新しい製品でどれだけ押し上げられるかという形で示した。二つ目はフィジカルAIで、Google DeepMindやDisney Researchとの共同研究、Isaac Simによる物理シミュレーションの進化が、講演の最後に登場したDisneyのOlafロボットへとつながっていた。三つ目が、エージェントAIの最上位レイヤーともいえるOpenClawだ。チップメーカーであるNVIDIAがこれを強く注視し、クレデンシャルや外部アクセスのセキュリティを担保する自社ディストリビューションNemoClawを公開したことは、正直アメリカに来るまで想像していなかった。

現場で触れたユースケース
同じテーマのセッションを諦めずに巡ると必ず良いものに当たる、というのが昨年からの学びだ。今年特に良かったのは、韓国LVMHグループのデジタルツイン活用のケーススタディだった。膨大なマーケティング撮影を、NVIDIA Omniverse上の100%物理法則を再現したバーチャル空間で行うという取り組みで、実際に手を動かしてきたテック企業の社長の言葉には説得力があった。物理世界と比べて99%の品質ではダメ、100%でなければメゾンの求める水準には届かない——だからこそOmniverseが必要だった、と。CADデータのある製品はそれを最大限活用し、ないものは自分たちでスキャンして積み上げたという回答も見事だった。

音声系のセッションも濃かった。全米最大級のフードサービス向けSaaS企業が、ドライブスルーの注文をAIの音声インタフェースで置き換える試みを、コメディのように軽快に語ってくれた。最初はモデルを自前で学習せず、まずプロンプトエンジニアリングで最短ローンチを狙った(彼らいわく「Prompt & Play」)が、まったく動かなかった。そこからモデルの学習に挑戦し、注文の成功率を約40%から85%まで引き上げたドラマチックなストーリーだ。言い直しや曖昧な注文のサンプル音声を会場で実際に流し、ドライブスルーの自動化がいかに難しいかを体感させてくれた。テキストを介さず80ミリ秒以内で応答するSpeech-to-Speechモデルや、AIが話している途中に人が割り込んでも理解し続けるFull Duplexの実演もあり、日本に帰ったらすぐ試したいと思わせるものばかりだった。
会期中は屋外テントの「Claw Bar」で、ローカルLLMのNemotronとOpenClawをつなぎ、WhatsAppからタスクを依頼して結果を受け取るところまで自分の手で体験できた。帰り道、これを使ってやってみたいことがいくつも頭に浮かんできた。

最終日:フィジカルAIとOne Brain
最終日はNemotron Dayと銘打たれ、Isaac Simのオーバービューや、NVIDIA・Google DeepMind・Disney Researchが登壇するNewtonのセッションなど、ロボット系が目白押しだった。圧巻だったのはSKILD AIのプレゼンだ。「One Brain」——四つ足、二足歩行、アームと、ロボットごとに脳を作る時代は終わり、一つのブレインであらゆるロボットを動かす、というビジョンを掲げていた。膝を結束バンドで固定された犬型ロボットが、痙攣しながらも数秒で状況に適応し、膝立ちのまま歩き出す映像には会場から自然と拍手が湧いた。理不尽な制約から立ち上がるロボットのデモが続き、フィジカルAIの波を肌で感じた一日だった。

五日間を通じて、Fine TuningからフィジカルAI、エージェントAIまで、AIの最前線で今なにが起きているのかを自分の手と目で確かめることができた。私たちGoldrush Computingは、こうして現場で得た一次情報を、AIを使ったプロダクトデザインと開発、AI導入支援に還元していく。来年のGTCまで、また日々の実験と発見を積み重ねていきたい。
