SAP Centerに掲げられたNVIDIA GTCの看板

NVIDIA GTC 2025 現地参加レポート

#NVIDIA #GTC #AI #GPU

NVIDIAが年に一度開催するAIカンファレンス「GTC 2025」に参加するため、革ジャンをクローゼットから引っ張り出して、サンノゼへ向かいました。成田からサンフランシスコまで約9時間、そこからBARTとCaltrainを乗り継ぎ、12年前に500 Startupsのアクセラレーションプログラムで1ヶ月滞在した懐かしのマウンテンビューを車窓から眺めながら、サンノゼに到着。ここから6日間、朝から晩までAIの最前線に浸る日々が始まりました。弊社Goldrush ComputingはAIを使ったプロダクトデザインと開発を生業にしているので、この現場で得た一次情報は、そのまま日々の仕事の血肉になります。

前夜祭:8時間のワークショップで打ちのめされる

正式開催の前日から、有料の終日ワークショップが開かれています。私が申し込んだのは「Building AI Agents with Multi-Modal Models」。マルチモーダルは自分の得意領域のつもりでいたのですが、これが大きな思い上がりでした。陽気なキューバ系の講師は、カメラ画像とLiDARデータをベクトル空間でどう融合するか、という話から始め、トークン化、アテンション機構、KVキャッシュがGPUメモリをどれだけ消費するか、というNVIDIAらしいファンダメンタルへと一気に踏み込んでいきます。Jupyter Lab上の演習は次々と課され、最後には認定証のかかったアセスメントまで。周囲を見渡すと年配のエンジニアばかりで最初は安心したのですが、彼らは全員が課題を涼しい顔で解き終えるスーパー知識層でした。行き詰まった箇所を隣のおじ様に聞くと即答して教えてくれました。ワークショップ後、ホールのテーブルで一休みしているとフレンドリーにインド系の紳士が話しかけて来ました。聞いてみると彼は自分で創業したGPUインフラの会社を、設立からわずか7ヶ月でNVIDIAに売却した人物でした。シリコンバレーには、こういう人が普通に話しかけてくることを12年ぶりに思い出しました。

初日からワークショップは満席

セッション初日:世界各国のAI実装が集結

本格的にセッションが始まると、その多様さに圧倒されます。印象的だったのは、インド発の国産LLM「Sarvam」。インドの22の指定言語すべてのサポートを目指し、10言語のタスクではLlama-3.1-8BやGPT-4oを上回る精度を実現しているという、国を挙げた熱量に満ちた発表でした。

小売店舗のカメラ映像から顧客の感情を解析し、サイネージに最適な案内を出すエッジAIのセッションでは、Omniverse上にスーパーのデジタルツインを構築し、パイプライン全体をシミュレートしていて驚かされました。カメラはJetsonに繋がって現場で解析する構成で、元組み込みエンジニアの私はEdge Computingへの興味が再燃しました。

一番面白かったEdge Computingのセッション

中国のチームによる「ゲーム内の音声対話AI相棒」のセッションも衝撃的で、音声認識・言語生成・音声合成のモデルを自作で徹底的に高速化し、応答を1秒以内に収めていました。

会場の醍醐味は、隣に座った人との会話です。ポスターセッションのビールの列では、NVIDIAチーフサイエンティストのBill Dally氏が私の後ろに並び、二人がけの小さな「One on One小屋」では、AIで完全にパーソナライズされたマーケティングのプラットフォームと、ネイティブアメリカンの自治区にデータ主権を守るデータセンターを建てているという元海軍の紳士から、「今が新しいことを始めるのに一番いい時だろ」と、背中を押してもらいました。 向かいに座った人との会話が始まるOneOneOne小屋

ジェンセン・フアンの基調講演

3日目のメインイベント、ジェンセン・フアンの基調講演を最前で観るため、開演3時間前からSAP Centerに並びました。会場の光の具合は、かつてスティーブ・ジョブズがこのSAP CenterでiPhoneを発表したときそのもの。本当に革ジャンを着て登壇したジェンセンは、2時間半にわたり、ペタフロップ、ワット、トークン数といった単位も桁も違うそれぞれの数字を暗算で繋ぎながら喋り倒しました。

基調講演でチップを掲げるジェンセン・フアン

「データセンターはAI Factoryになり、コンピューターはデータを読み出す機械ではなくトークンを生成するものになる」「BlackwellはHopperの40倍の処理能力を実現する」「エンタープライズへのAI適用はエージェント技術が鍵になり、NVIDIAのエージェントが企業のワークフォースになる」。一見バラバラに見えるGPU、ケーブル、CUDA、ライブラリ群、プラットフォームが、何年も前から一つの未来像へ向けて設計されていたのだと腑に落ちる講演でした。締めくくりはディズニーのロボットとの対話で、和やかに幕を閉じました。

世界の名だたるクラウドがすべてNVIDIAの顧客であることを示すスライド

音声合成とエージェントフレームワークの最前線

自分の関心に最も刺さったのが「Speech AI Demystified」です。従来はSTTでテキスト化した教師データからTTSを学習しますが、トランスフォーマーで音声から音声トークンを生成し、それを教師にTTSを学習する手法が紹介され、わずか30秒のサンプルからその人の声色を再現していました。さらに、音声を直接理解して返答を生成する音声ネイティブなLLM、入力も出力も音声というLLMの試みまで語られ、STT→LLM→TTSという構成でPoCを作ったことのある身として、地殻変動を感じました。

もう一つの収穫が、発表されたばかりのNVIDIAのエージェントフレームワーク「AgentIQ」を触れるワークショップでした。「君たちが世界で最初にAgentIQのコードに触れる顧客だ」という言葉どおり、WorkflowとFunctionでタスクを組み立てる仕組みを体験。一昨年、チャット型AIエージェントのPoCでステート管理やRAGを束ねるコントローラーの汎用化に苦労した宿題に、正面から向き合えた瞬間でした。マルチモーダルRAGのセッションでは、PDFの表やグラフをいかに正確にLLMに解釈させるか、チャンクサイズをどう決めるかという生々しい課題が、スピーカーの「温度感」とともに伝わってきました。この温度感こそ、現地で聴く最大の価値です。

最終日:Jetson実機とAWSでのハンズオン

最終日は、Jetsonの実機を一人一台使うワークショップ「NVIDIA JetsonとAWS IoT Greengrass」で締めくくりました。IAMアカウントとAWS環境まで貸与される、運営側も大変であろう濃密なセッションです。

会場で一斉に稼働する大量のJetson

Greengrass経由でプログラムをJetsonにデプロイし、LEDを光らせる「Lチカ」から、デバイスグループへの同時デプロイへ。ペアを組んだのは、世界に200人ほどしかいないMicrosoft Regional Directorという中国の経営者ジョフリー。二人でコンポーネントを同時デプロイしたら片方が緑、片方がピンクに光り、原因究明にのめり込むうちに時間切れ——最も面白い映像解析の演習に辿り着けず終わりました。スタートアップ展示では、布のデジタルツインを物理法則レベルで再現するDMKTZ、バーチャル空間で撮影した写真に深度や反射角までピクセル単位で付与するSKY ENGINE AIが特に印象に残りました。ビジョンAIのデバッグに使える、日本でも紹介したい会社です。

なぜか私の製品アイデアにも親身に相談に乗ってくれたSKY ENGINE AIのナイスガイ

6日間、平均3時間睡眠でAIの最前線を浴び続けた濃密な日々でした。会場で交わした一つひとつの会話と、実機に触れた手触りは、オンライン視聴では決して得られないもの。ここで得た知見と手応えを、Goldrush ComputingのAIプロダクト開発に還元していきます。